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まだ見ぬ王子様へ(小説)

2012年03月16日

「あんまりかわいい子いないねぇ。」
次々と体育館に入場していく新入生を眺めながら麻耶が呟く。
「高1たって、ついこの間までは中学生だよぉ。」
窓枠に寄りかかるように麻耶の隣に立つ。

今日は始業式だけで学校は終わり。
クラスメイト達は久しぶりに会った仲間達と休みの間の話や、これから始まる授
業の話など他愛のないおしゃべりをしながら教室を後にしていく。
次第に静かになっていく教室であたし達は何をする訳でもなく、ただ僅かに見え
る体育館を眺めていた。

「もぉ、夢がないねぇかずは。」
素気ない返事をするあたしを軽く睨みつけた。
「あと2、3ヶ月もすれば、あの子供子供した顔も『男』を感じさせるのよ。」
そう言って満足そうに笑顔を見せる麻耶がなんか可笑しい。
「その言い方、なんかヤラシイよ。」
悪戯っぽく笑顔を見せる。
「からかうな、かず!」
そう言って麻耶はあたしの鼻をきゅっとつまんだ。
「ひゃぁ。」
小さい悲鳴を上げ、麻耶に背を向けた。
「もぉ、麻耶は。」
抗議の声と同時に教室のドアが開いた。
「なんだよ、かず。まだ残ってんのかよ。」
そう言って吉川が顔を覗かせる。
「吉川じゃん。なに今日も部活な訳?」
ロッカーからトレーニングウェアを取る吉川に、麻耶が話しかける。
「そっ、おまえらと違ってヒマじゃないの。」
あたしの隣に来て、窓から顔を出す。
「で、何見てんの?」
「1年生。吉川も可愛い子チェックする?」
「ばーか。」
そう言ってあたしの頭をくしゃくしゃっとなで、くだらねぇと小声で言いながら
吉川は教室を出て行った。

そんな様子を見ながら麻耶が呟く。
「吉川はかず狙いだね。」
「ちょっ、やめてよぉ。」
唐突な言葉に体が熱くなるのが分かる。
「んー、かずはその気なしなの?」
麻耶の言葉に少し考えてみる。
実のトコロ、好きとかそういう感情は良くわからない。
いいなって思う人は今までいない訳じゃないけど、ただそれまでだ。
その人の事を考えると心が苦しくなるとか、そんな経験は残念ながらまだない。
「よく分かんない。」
麻耶から目を反らし窓の外に目を向ける。
「よく分かんない、か。はは、分かる気がする。」
そう言いながら麻耶も窓辺に肘をつけ外を眺めた。
「ねぇ、好きってなんだろうねぇ?」
小さく呟いてみる。
そんなあたしの頭をさっきの吉川のようにくしゃくしゃっとなで、麻耶が笑いだす。
「ちょっ、笑うことないじゃん。」
髪の毛を手ぐしで直しながら、軽く麻耶を睨む。
「やー、だってかずすっごく可愛い。」
もういいって言いながらそっぽを向いた。
「ほーら、拗ねない。」
「あたしもまだ良く分かんないよ。」
そう言った麻耶をあたしはすごくキレイだと思った。
「ホント?」
うんと小さく頷く。
「だってさ、眠り姫みたいにキスされたからって、王子様好きになれないじゃん。」
麻耶が嬉しそうに笑顔を見せる。
「分かんないよぉ、運命の人だって思えたら時間じゃないのかもよ。」
「ふふ、そうかもね。」
「そうかもって、さっきと違うじゃん麻耶。」
「いつか見つかるといいね。」
ほら帰るよーって言いながら麻耶は窓を閉めた。

いつかその笑顔を向けられる男(ひと)は誰なんだろう。
そう考えるとなんかくすぐったいような気がして、おいてくよって言いながら
走り出した。
「あー、ずるい。」
一緒に走り出す麻耶と教室を後にした。

今年は何かいつもと違うことがあるかもしれない。
なんとなく。
唐突だけど、そんな気がした。

『まだ見ぬ王子様へ。』

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