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飛行機(小説)

2012年03月22日

物心ついた時から飛行機の音が嫌いだった。
音が大きいからとかそういうのじゃなくて、あの音を聞くと体がきゅっと締付けられるような、なんとも言えない怖さがあるから。
お母さんに話したら「子供はかわいいね」なんて笑ってたっけ。
でも、小学4年の時その理由が分かった。

小学4年生の時、学校の体育館で映画を観た。
暗幕で締め切られた体育館は暑くて、纏わりつくような空気が嫌だったけど、勉強をしなくて済むと思ったら嬉しかった。
映画は子供向けに創られたアニメの戦争映画。
期待していたような楽しい内容ではなくて、言葉を発してはいけないようなどことなく苦しい内容だった。
「戦争」という言葉は知っている。
食べ物がなくて大変だったことも、たくさんの人がしんだって事も。それがどういう事かなんて、考えた事もなかったけど。
あたしが生まれるずっと前にあった出来事だって、それだけは知っていた。
初めて映像でみた「戦争」は、リアリティのない、けど現実の話だった。
飛行機が飛んで爆弾を落としていく。
家が焼けて、みんな行くあてもなく逃げ回る。
あたしの目にその映像はやけにはっきりと、そして鮮明に映っていた。
1秒たりともその映像を見逃すまいと、あたしはじっと見つめる。
だって、あたしはこの映像を、いやこの状況を知っている。
体育館なんかとは比べ物にならない炎の熱さを。うなりを上げて頭上を飛ぶ飛行機の音を。ただ走り続けたあの恐怖を。
あたしは知っている。
だって、あたしはあそこにいたのだから。

映画を観て、ただただ涙を流すあたしを友達や先生が一生懸命慰めてくれたけど、あたしの涙はしばらく止まる事はなかった。
悲しかったんじゃない。
怖かったんじゃない。
あたしは自分が戦争の現実を忘れてしまっていた事に涙が流れた。
前世の記憶なんてものを持っているわけではない。でも、あたしの中にはたくさんの記憶が受け継がれていたのだ。
忘れてはいけない記憶を少しずつ、親から子へと。
昔おばあちゃんが言っていた言葉がゆっくりと頭の中で響いていた。

こんな話、友達やお母さんに言っても誰も信じてくれないだろう。だから自分だけの秘密にした。
あの時感じた気持ちを忘れないように、大切な自分だけの秘密に。
あたしは今でも飛行機の音は嫌いだ。それは戦闘機の音ではないけれど。
だからあたしは祈る。
もう誰も戦争で悲しい思いをしないように。
もう誰も戦争などしないように。

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