トップ  >  オリジナル小説  >  NOT FOUND(小説)

NOT FOUND(小説)

2012年03月23日

僕はつい見えもしないものに頼って逃げる
君はすぐ形で示してほしいとごねる

矛盾しあった幾つもの事が正しさを主張しているよ
愛するって奥が深いんだなぁ


開発の仕事から離れてどのぐらいたったんだろう。
最初の頃は仕事の違いに戸惑ったり、寂しさを覚えたりしたけど今はここが日常。
人間ってすごいって時々思う。
だってちゃんと環境に順応していけるんだもん。
でも・・・、こうやって少しずつ過去を忘れていくのが怖い。
あたしはいつかあの頃さえ、思い出したりしなくなるのだろうか?

夕方の食堂は昼間と違ってガランとしてて、あたしは隅に座ってぼんやりとそんなこをと考えてた。
定時で仕事を終え、すっかり帰り支度をすませたあたしは帰るともなしにただここに座ってる。
前はよく篠原と一緒に帰ったりもしてたけど、今はあいつとはなかなか会う機会もない。
部署がかわって、生活のリズムが合わなくなったのだ。
この寂しさもいずれなくなって、篠原のいない生活も普通になるんだろうな。
そう考えて、動揺してる自分にびっくりした。
あたしとあいつって一体なんなんだろう・・・
「佐藤!」
不意に聞きなれた声で名前を呼ばれて、声の方へ顔をむける。
予想通り篠原がいて、あたしは手をふった。
なんとなく顔を会わせるのが気まずくて、無理矢理笑顔をつくる。
「久しぶり。なんだよ、こんなトコに座って。」
そんなあたしに屈託なく話す彼が愛しいと思う。
「なんとなくね。」
短く返事して、差し出された缶コーヒーを受け取った。
「篠原は最近どう?相変わらず残業多いの?」
「残業なんてマシだよ。出張に徹夜。人権なんて毛ほども考えちゃいないんだよ。」
文句を言いながら、まんざらでもない顔をしてる。なんか篠原らしいや。
「そっか。」
「佐藤は?」
「あたしは見ての通り。これから帰るトコ。定時生活なんて送れて、幸せ者だよ。」
へへっと笑って、缶コーヒーを飲んだ。
口に広がる苦さが、今はちょっと苦しい。
「なんかあったのか?」
彼の唐突な言葉に、なにもかも見透かされてるみたいであたしはそんなことないよって答えながら、自分の足元しか見れなかった。
なんでこんなに苦しくなるんだろう。
篠原に会えば、もっと一緒にいたいって思う。離れるのが寂しくて、最近じゃ避けてたりもしてた。
いつでも目は篠原を探してるのに。
「あのさ、なんかあったら俺に言えよ。解決は出来ないかもしんないけど、口に出せばすっきりすることって、結構あるぜ。」
一緒に仕事をしていた時の彼からは想像もできない言葉だ。
確実に時間は流れてる。あたしも彼も。
いつまでもあの時のままじゃいられない。
「ありがと。」
すごく泣きたい気持ちになって、一気に残りのコーヒーを飲み干した。
あたし、このもやもやとした気持ちがどこから来るか知ってる。
そしてそれを解決する方法も。

あたし、篠原が好きなんだ。

手に入らないものを望んで、じたばたしてるだけだ。
認めてしまうと涙を堪えるのが難しくて、帰るねって精一杯の声をかけて背を向けた。
「佐藤。」
篠原があたしの名前を呼ぶ。
それには答えず、歩き出す。本当はすぐにでもここから消えてしまいたい。
「佐藤。」
もう一度名前を読んで、彼はあたしの手を引き寄せた。
「なんだよ、どっかに消えちまいそうな顔して俺の前からいなくなるなよ。」
頼むよと最後は搾り出すように口にして、あたしを抱きしめる。
篠原はあたしのことどう思ってるんだろう。
突然のことにそんなことをぼんやりと考える。
嫌われてる訳じゃないのは分かる。でも、篠原はあたしを仕事上のパートナー以上に考えた事あるのだろうか。
抱きしめられたのは時間にしてすごく僅かなことだけど、あたしの頭はフル回転でぐるぐるとそんなこと考えてた。
篠原の親指がそっとあたしの頬を撫でる。涙は篠原の指に吸い取られる。
そしてあたしの唇にそっと温かい感触が伝わる。
それがキスだって気づいた時には、篠原の顔はもう離れてた。
「どうして・・・」
それまでごちゃごちゃとあたしの頭を支配していた思考は一切ストップした。
「本当はずっと言おうと思ってた。いや、こんな状況で言うつもりは全然なかったんだけど。俺、おまえの事が好きだ。ずっと一緒にいたいと思ってる。」
「あたし・・・」
言葉が続かない。自分の気持ちを伝えたいのに、嬉しいって言いたいのに。
あたしの喉はカラカラに渇いて、言葉を発する事を許さない。
すごく不安そうな篠原の顔が滲んで見える。
あたしは篠原の胸に頭を預けて、泣くのが精一杯だった。
「な、泣くなよ。」
彼の指があたしの髪を何度も撫でる。
「篠原ー。」
遠くの方で篠原を呼ぶ声が聞こえる。
「やべ。俺、仕事の途中だったんだ。」
焦りながら篠原があたしから離れる。その温もりに少し未練を残しつつ、あたしは小さく手を振る。
「佐藤、ちょっとだけ待ってろ。すぐ仕事終わらせてくる。いいか、絶対帰んなよ。」
そういいながら、篠原は声の方に駆け出していった。
相変わらずツメの甘い彼が愛しくて、泣いてたのも忘れて吹き出した。

篠原が帰ってきたらちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
愛ってやつを始めるために。

スポンサーサイト

My Life(散文) | トップページへ戻る | Weep Oneself Out(散文)

このページのトップに戻る

コメント

名前
題名
メールアドレス
WEBサイト
 
コメント
パスワード
  管理者にだけ表示を許可する

このページのトップに戻る

トラックバック

このページのトップに戻る