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live(散文)

2012年03月23日

この駅に着くのは何度目だろう。
俺はなんの目的もなくただ電車に乗り続けてた。
薄っすらと暗くなった外をぼんやりと眺める。
電車はそんな俺のあてどない気持ちを表すかのように、ただ規則的に走り続ける。
俺の人生もそれと同じだと思ってた。
いい事も悪い事もあるけど、人生って長い道のりを走り続けるもんだと思ってたから。
今日、病院に行った。
なんとなく不安はあったけど、たいした事ないって思ってたんだ。
でも答えは期待とは反対で、人生のリタイア宣言だ。
ふざけんなよ。
俺、まだ20代だぜ。
あと半年。もって1年。
どんだけ勉強して医者になったエライ人かもしんねぇけど、何言ってるか全然わかんねーよ。
何枚もレントゲン並べて、淡々と病状を説明していく。
俺はただぼんやりとそれを聞いていた。
とりあえず曖昧な返事をして、そのまま電車に乗り込んだ。
神様って本当にいるのかよ。
心の中で悪態をつく。
どうして生きたいと願う奴の願いは叶えてくれないのに、死にたいと願う奴の願いはあっさり叶えてくれんだよ。
そんなの不公平だろ。
ありったけの罵声を浴びせながら、電車に揺られてる。
人間って本当に悲しいときは涙も流せないんだな。
乾いた笑いだけが静かに口から漏れる。
「お兄ちゃん、これ食べな。」
不意に隣に座ってたおばあちゃんから声をかけられる。
手には金平糖の袋が握られている。
どうもって短い返事をして手を差し出した。
彼女は片手いっぱいに金平糖を乗せる。
そこから一つつまんで口に入れる。
それは甘い砂糖菓子で、泣きたくなるほど懐かしい味をしてた。
「なぁ、ばあちゃん。いくつ。」
ぽつりとそんなことを質問する。
彼女は気を悪くするでもなく、今年で76だと答える。
「年取るってどんなカンジ。」
俺の質問に笑うでも怒るでもなく、彼女は静かに笑みを湛える。
「随分と遠くまで生きてしまったと思うよ。でも悪かないねぇ。」
「そっか。」
「なぁ、死ぬってどんなカンジ。」
また一つ金平糖を口にする。
さっきとは違って、しょっぱさが口に広がる。
「主人が死んだとき、なんであたしは生きてるのか悔やんだよ。ずっと一緒だと思ってたから。なのにあたしだけこんな老いさらばえた姿で今も生きてる。」
彼女は何処を見るわけでもなく、ただ流れ行く窓の外を眺めていた。
「でも今は生きてて良かったと思ってるよ。」
「そっか。」
車内アナウンスが次の駅名を告げる。
「俺、ここで降りるよ。」
彼女が小さく手を振る。
それに答えるように小さく手を振りかえし、人ごみにまみれて駅へと降り立った。

いつまで生きていられるか、それは神様にも分からない。
でも、俺は生きれるだけ生きてみようと思う。
かっこ悪くても、最後まで足掻いてみようと思う。
それが俺の生きる道だから。

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